アパレル販売員・高山のブログ

現役アパレル店員としての体験をマンガにしています。

【実録】アタタタ!いたずら電話

 

私が昔勤めていたお店はファッションビルの中にあったのですが、
ある時期、館全体でいたずら電話の被害が多発していました。


「下着のサイズを聞かれた」
「彼氏いるの?と突然尋ねられた」


館からそんな迷惑な電話の注意喚起が上がる度、
私たちのお店でも警戒を強め、戦々恐々と店頭業務にあたっていました。

 


そんなある日。


店内が閑散としていた時間帯に電話が鳴り、
私が受けると男性らしい声が。


「あの、青いカーディガンありますか?」


いたずら電話かな、と一瞬ギクリとしましたが、
普通の問い合わせ電話のようで安心しました。


特にこれと決めている商品があるのではなく、
イメージに合う商品があるのかどうか電話で探したいとのこと。


「うーん、色は真っ青のものでお探しですか?」
「はい、青がいいです」
「ネイビーやライトブルーならいくつかあるのですが...
あ、長い丈のものなら真っ青があります!」
「...ぴったりして短いものが良くて」
「そうなんですね...袖の長さはどれくらいをご希望ですか?」
「袖がない方がいいです」


ぴったりして袖がないカーディガン...?
ベストのこと?


「スーツみたいにスベスベした素材がよろしいですか?」
「カーディガンが良いと思います」


...良いと思います?
他の方が着るのかな。


「プレゼント用ですか?」
「いえ、自分用です」
「なるほど...」


男性が女性用の商品を買われることも決して珍しくはありません。
ただその場合サイズの感じが合いづらいことが多いので、
お持ちのイメージをよくヒアリングしなければ、と思いました。


「なにかこう、雑誌などで見られて
イメージに近いと思われたものなどありますか?
芸能人が着ているとか...」


ケンシロウです」


.......え?


「僕、ケンシロウになりたいんです」


ケンシロウってあの、北斗神拳の使い手?
確かに青いノースリーブのカーディガンを着ていたような...
いやあれはカーディガンなのか???
少なくともOL向けキレイめカジュアル服を扱う私の店に、
世紀末テイストの服は置いていないのです。


「えっと...なかなかそっくりなものはなくて...申し訳ございません」
「いえ、そちらのお店で探したいんです」
「うーん」


なにかおかしいと思いながらも、
お客様のお問い合わせだと思うと無下に断ることもできず。


「青で袖無しで...
あ、青のノースリーブニットがあります。
ただかなりぴったりとするデザインなので...」
「そしたらちょっと店員さん着てみてください」
「え?」
「サイズの感じが分からないので、
今その場で着てケンシロウになれるか試してください」


さすがにこれはおかしい!と思いようやくあたふたする私。


「えっと、お電話口ではお伝えできないので...」
「とにかく着てみてください!」
「恐らくお客様と私では体格も違うと思われるので...」
「今すぐ着てみてって言ってるでしょう!」


押し問答のうちに段々と語気を荒らげる男性。

おろおろの私。
そしてついには


ケンシロウになりたいって言ってるだろうが!」


...ブツリ


電話を切られてしまいました。


私の長電話がやっと終わったことに気がついた先輩が尋ねます。


「なにかお問い合わせ?...もしかしていたずら電話?!」


ただ事ではない様子を察した先輩と館の警備員さんによる事情聴取が始まりました。

 

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「えっと、かけてきたのは男性で、青いカーディガンを探していて...」


"ケンシロウになりたがっていた"というと
どうにも吹き出してしまいそうで、


「...アニメのキャラクターになりたいと言ってました」


と辛うじて口にする私。


先輩や警備員さんは、恐らく学生服のカーディガンを着た
萌え系アニメのキャラクターを想像したことでしょう。


さらには「着てほしいと言われた」という私の証言に、
なんと恐ろしい電話が!という様子。


すぐさま全館に注意喚起します、という警備員さん。
「怖かったよね、今日は帰ってもいいよ」という先輩。


ごめんなさい、俯いているのは
怖いんじゃなくて笑いそうなんです...。


早退はさすがに申し訳なかったものの、
電話しているところを見られていたかも!
今日は店頭は怖いからやめておこう!
という先輩の優しさに押し切られ、
その日はバックルームで納品作業をすることに。


ちょうど電話中にご提案していた繊細なネイビーのカーディガンを、
「こんな生地で百裂拳を繰り出したらすぐ破けて
そりゃノースリーブにもなるよな...」
と思いながら畳むのでした。

 

 


【ご注意】
・あくまで私には実害がなく、
トラウマになることもなかったので笑い話として書きましたが、
いたずら電話は本当に迷惑で怖いものです。
先輩が話していたように、遠くから見られている可能性もあります。
お店の方は十分にお気をつけくださいね。
そしていたずら電話犯!許さんぞ!


・私はお客様情報には必ずフェイクを入れて投稿しており、
今回のエピソードにも事実と変えている点があります。
また当時は販売を始めてまもなかったため判断に迷いましたが、
今思えば明らかに問い合わせ目的ではない
いやがらせ電話だったな、と考え投稿しました。
性別に関わらず全ての人が色々な服を楽しめるように、
また様々な動機で服に挑戦してもらえるように、

切に願っています。あべし。