アパレル販売員・高山のブログ

現役アパレル店員としての体験をマンガにしています。

教養ブームの時代、販売員に求められるもの

 

昨今は「教養」ブームの時代だと言われています。


書店ランキング上位を見ると、
「1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365」シリーズや
「見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編」
地政学(サクッとわかるビジネス教養)」
など。


ここ数年続いていた「教養」ブームに、
コロナの流行による外出自粛の傾向が
拍車をかけているような印象です。


このような「教養」ブームの時代において、
販売員も求められる役割があると考えています。


とは言っても、アディダスの社名がどうだとか、
そういうウンチク的な小ネタを仕込むということではありません。


「教養」ブームの時代に販売員に求められるものとはなんでしょうか。


瀧本哲史『戦略がすべて』を参考に読み解きながら
私なりの考えを書いてまいります。

 

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◆教養ブームは情報過多へのカウンター


『戦略がすべて』では教養ブームについて、
以下のように書かれています。


「教養」ブームは、情報消費に関する現在の大きな流れへのカウンターとして出てきたものではないか

 

誰もがインターネットを使えるようになり、SNSが発達し、
私たちは膨大な量の情報にさらされるようになりました。


あらゆる人が、自身の処理能力を上回る量の
情報の刺激に日々悩まされている状態です。

 


その結果、今流行しているサービスは
「情報をたくさん集めるサービス」ではなく
本質的には「情報をせき止めるサービス」になりました。


世界中の莫大な量のニュースから、
読者の興味があるものだけを選び抜くニュースアプリ。
興味のある情報だけを「フォロー」して、
さらには「ミュート」したり
「リスト」化することもできる
InstagramTwitter


こうしたサービスを駆使することで、
私たちは自身の処理能力以上の情報を
整理することに成功しているように見えます。

 


しかし、その情報の取捨選択の基準は各個人にあるのです。
タイムラインに流れる情報を見ていると、
自らに心地よい情報だけがアレンジメントされています。


こうした状態を瀧本氏は「蛸壺型の社会」と呼んでいます。
世界をつなげるというインターネットの理想に反し、
同調する者が集まって肯定しあい、反対意見を排除する社会です。

 


こうした社会に居心地の良さを感じつつも、
「これで本当に良いのだろうか」と感じた人々の意識が
教養ブームに繋がっているのです。


教養ブームは、失われた普遍性を取り戻そうとする動きと言えます。

 


◆アパレル購買における情報過多と蛸壺化


さて、私は『戦略がすべて』を読んで
「たしかに教養の本、手にとっちゃうよな...」と自らの生活を省みつつ、
ついアパレルの購買の現状を重ねてしまいました。


インターネット...とりわけSNSの発達による情報過多は、
消費者から見たアパレル商品の情報過多も引き起こしています。


いつものファッションビルかお気に入りの雑誌でしか
手に入らなかった商品の情報が、
世界中のブランドのECサイトSNSから提供されています。


単純な商品の種類といった情報だけではなく、
着こなしや「あれはダサい」といった評判まで。

 


そして情報の氾濫にまみれた消費者は
自らのSNSを「蛸壺」化させます。


いつものブランドとインスタグラマーをフォロー、
商品はいくつかを「お気に入り」登録しておけば、
類似商品ばかりがおすすめされます。
アパレル以外のサイトを開いたつもりでも、
表示される広告も商品の閲覧履歴からカスタマイズされる始末。

 


それは欲しい商品を探すという意味では便利で心地よい方法ですが、


「本当は皆なにを着ているの?」
「もっと他にもあるんじゃないの?」


という思いがいずれ生まれるでしょう。


アパレルの購買においても、教養ブーム...
つまり見失われた普遍性への回帰が必要とされるのです。

 


◆販売員に求められる役割は「普遍性」の提供


すっかり自分好みにカスタマイズされてしまった
スマートフォンから顔を上げて、
お客様がリアルな店舗で商品を見る時、そこには


SNSで見たこれ、本当に皆良いと思うのだろうか」
「他にも色々あるんじゃないか」


という思いがあるのではないでしょうか。


教養ブームに裏付けられる通り、消費者はSNSの評判を気にしつつも、
それには自分自身のバイアスがかかっていることにも
気がついているはずです。


そのようにして店舗にたどり着いたお客様に
販売員が提供できることと言えば、「普遍性」です。


お断りをしておくと、ファッションにそもそも
普遍的なものはないと考えています。


ですが普遍性を求めていらっしゃるお客様に
安心していただける情報、という意味で言えば、


①一般的な着用のマナーや歴史
②お客様がネットでは触れることのなかった
商品情報や着こなし


そして、
③お客様が選別してきた情報に太鼓判を押すこと


です。

 


それぞれ解説をすると...


①一般的な着用のマナーや歴史


結婚式にミュールでもいいのかな?
スーツの丈ってどれくらいがいいの?


などの疑問について、SNS
どこの誰とも分からぬ人間がつぶやくことよりも、
直接会える販売員が言うことの方が信頼できる、
と思う人の方が多いでしょう。

 


②お客様がネットでは触れることのなかった商品情報や着こなし


先程の『戦略がすべて』に戻ると、
瀧本氏は教養とはなにか、という疑問に対して
『「自分と異なる思想」全て』と書いています。


お客様が自分自身に都合が良くカスタマイズされたSNSから離れて
店頭にいらっしゃる時、


「他にもないかな」


という気持ちがあるでしょう。


お客様が「これありますか?」と商品のスクショを持ってくる時、
その商品の在庫分だけをお持ちして終わるのでは
わざわざ店頭に立っている販売員の役割を果たせていないのです。


それ以外の商品、
それも、可能ならお客様がせき止めてしまい

たどり着けなかった情報の中から
商品や着こなしをご紹介できないといけないのです。


お客様のニーズ・ウォンツを満たし、
押し付けがましくなく新しいものを提案する...
本当に難しいことですよね。


でもそれができなければ、オンラインを離れて
わざわざ店頭で販売員と話す意味が薄れてしまうでしょう。


常に店頭は新しさでわくわくする場所であってほしいです。

 


③お客様が選別してきた情報に太鼓判を押すこと


私たちは自分の意見に同意する人を求めて
SNSを蛸壺化させます。
そして、普遍的なものを確かめるために「教養」を求めます。


しかし普遍性を求めるからといって
心地よいSNSのタイムラインをわざわざ作り替えようとはしません。


プライベートなSNSアカウントにおいて、
「普遍性も身につけないといけないよなぁ」
といってわざわざ好きでもない
趣味の違うアカウントをフォローする奇特な人は少ないでしょう。

 


販売員は、そのように情報を選別されたお客様の好みの世界を
肯定することも大切かと思います。


普遍性を提供するといっても、
「お客様のそれ、流行ってないっすよ笑」
ということではないのです。


お客様が自身のSNSでお店の情報をフォローしてくださっている、
お店のテイストを取り入れてくださっている、
商品の情報を検索してくださっている。


日々店頭で自社の商品に触れている側からすると
感動を忘れてしまいそうですが...


お客様が自分自身の心地よいタイムラインに
お店を組み込んでくださっていると考えてると、
とても喜ばしいですよね。


まずはそこに感謝をして、しっかり共感することも大切かと思います。


最近は私もそのことに気がついてから、
オンラインサイトのスクショを持ってきてくださる方には
まず深々とお礼を申し上げています...。

 


◆まとめ


昨今の教養ブームがどのような流れの中から生まれたものか、
そこから販売員のあり方をどう考えられるか、
書いてまいりました。

 

ネットの情報が豊富な中、

お客様がわざわざ店頭にいらっしゃる意味を考え、
販売員として適切な役割を果たしたいですね。

 

長くなりましたが最後までお読みいただきありがとうございます。